屋久島宮之浦岳縦走(16/03/20-23)


文:内海拓人(新法3)

 

 

参加者

 

安藤由都(法1年)、胡迦安(経1年)、高謙(社1年)、小久保剣(法1年)、坂本遼(法1年)、内海拓人(法2年)、曲文琛(社2年)、清野友紀(国際基督教大学2年)

 

 

 

天気

 

21日:晴れ 22日:晴れ

 

 

 

コースタイム

 

21

 

民宿あんぼう(安房)5:00→(タクシー)→6:00淀川登山口6:156:50淀川小屋7:208:55花之江河→11:30宮之浦岳12:1013:15平石岩屋→14:45新高塚小屋(泊)

 

22

 

4:00起床、新高塚小屋6:007:20縄文杉7:508:15大王杉→9:00ウィルソン株→12:30太鼓岩→14:30白谷雲水峡バス停→(タクシー)→民宿ふれんど(宮之浦)

 

 

 

 

 

 僕は山岳部へ入る以前から、漠然と屋久島へ行ってみたいと思っていた。テレビや雑誌などで縄文杉や苔むした森を見て、いつかここを歩いてみたいと考えていた。そして山岳部に入ってから九州最高峰、宮之浦岳の存在を知って、ますます登ってみたいという気持ちが強くなった。夏にはアルプスに行きたいし、比較的暇で雪の無い季節ということを考えると、2年生の春休みが最後のチャンスになるかもしれないと思い、去年の冬頃から本格的に計画を立て始めた。12年生に声をかけると、予想を上回る8人も集まってくれて嬉しかった。

 

 計画を立てる段階で最も苦労したことは、コース設定である。宮之浦岳に登頂して縄文杉、白谷雲水峡も見ることのできる縦走コースは、本などを読むと上級者コース扱いだった。特に若干ロープ場があること、歩行距離と標高差がそれなりにあり体力が求められることが不安要素であった。この時期は積雪期の山に入る部員が少ないので、しばらく山に登っていないというメンバーも多い。果たして僕たちのパーティはこのコースを縦走できるのか、不安が拭い切れなかった。そのため当初は、標高差は大きいが縄文杉を確実に見ることができるように、実際に歩いたコースとは逆回りで計画していた。しかし、坂本から「登れない前提の計画だ」という指摘を受け、加えて藤原さんと中村さんに相談に乗って頂いた結果、今回歩いたコースに決定した。(実際に歩いてみると、逆回りの登りは相当辛いだろうと感じた。)やはり計画を立てる際には、誰かに相談するという過程を踏むことが大切だと改めて感じた。

 

 

 

前日準備 319

 

 昼過ぎに部室に集合して、装備分担を行った。避難小屋泊予定だったが、小屋が満員になった場合のことも考えて念のためテントを1張持っていくことにした。シュラフ、マット、調理器具類(ガス缶は飛行機移動なので持っていけなかった。)などを詰め込むと、テント泊のときよりは荷物が少ないように感じた。その後、西友へ食材を買いに行った。今回の献立は食事係の女子3人に立ててもらった。山中での夕食のカレーと朝食のパスタの食材を買った。パスタは、夏の雲取山での悲劇を繰り返さぬように、茹で時間1分の早茹でパスタを購入することのないように細心の注意を払った。部室に戻って食材を分担し、翌日の空港の集合時間や全体のスケジュールを確認してから解散した。帰宅後、自分の荷物をパッキングすると、なぜか80ℓザックは満杯になっていた。山行毎に思うが、僕は荷物が多くなる傾向がある。心配性なのか、良くないとは思いつつも色々と持っていきたくなってしまう。

 

 

 

1日目 320

 

 前日に絶対に遅刻しないようにと言っておきながら、羽田空港に着くと僕がビリだった。朝が早かったこともあり、飛行機の中ではよく眠れた。鹿児島空港でのバスへの乗り換え時間が短くて不安だったが、東京の空港とは違って荷物はすぐ出てきて、バス停は出入り口の目の前にあったので、予定通りのバスに乗ることができた。高速船ターミナルに到着して乗船券を買った後、昼食を食べた。鹿児島ラーメンと名付けられたものを食べたが、正直東京のラーメンとの違いがわからなかった。高速船が出航すると、目の前に大きく桜島が見えた。船は揺れることもなく、とても快適だった。

 

 14時頃、ようやく宮之浦港に到着した。東京を出発してから既に6時間以上経っている。屋久島の遠さを実感した。船を降りると、風が暖かく春の陽気だった。バス停まで歩いて向かうが、島で一番大きい港のわりには全然人がいない。バスからの車窓を眺めていると、この島では時がゆっくり流れているように感じた。安房に到着すると、まずは荷物を置きに宿に向かった。途中にモスバーガーがあり、屋久島にもチェーン店があるんだ、などと話していると、綺麗な海が見えてきた。この海沿いに今日泊まる民宿があった。こぢんまりとした民宿で、まるで友達の家に遊びに来たかのような感覚だった。荷物を置いてしばらく休んでから、スーパーへ買い出しに出かけた。途中、なぜか消防署と思われるような場所でBBQをしている人達がいた。言葉ではうまく表現できないが、街全体がほのぼのとした雰囲気で、老後はここに移住したいと思ったりした。夕食は宿の方おすすめの洋食レストランで食べた。開店直後に行ったのになぜかハンバーグは2つしか出せないと言われたが、どの料理も絶品だった。宿に帰ると、翌朝の起床が早いのでさっさと準備をして布団に入った。だが、部屋の蒸し暑さと翌日から始まる縦走に対する期待と不安で、寝付くまでに少し時間がかかった。

 

 

 

2日目 321

 

 350分にスマホのアラーム音で起きた。電気ケトルでお湯を沸かしながらドライヤーのスイッチを入れたところ、なぜかブレーカーが落ちた。朝から面倒くさいと思いつつ後始末を後輩に頼んで、自分は前日に予約した登山弁当を受け取りに行った。5時に予約していたタクシーが迎えに来て、宿を出発した。あたりはまだ真っ暗であった。途中、荒川登山口方面に日帰りで縄文杉を往復する人達がたくさん集まっていた。それを見ながら運転手さんが、今日は縦走する人はそんなにいないと思うが、念のために小屋には早く到着するように心がけた方がよいとおっしゃっていた。眠かったのでタクシーで寝たかったが、タクシーが急カーブを予想以上のスピードで走り抜けていくことへの不安から寝ることができなかった。

 

 6時頃、淀川登山口に到着した。まだ明るさは十分でなく、ヘッドランプを用意した。準備運動を終えて歩き始めると、早速いつも歩いている山とは雰囲気の異なる森が広がっていた。(具体的にはわからないが)植物の種類が多く、深い森という印象だった。なぜか歩いているだけでワクワクした。淀川小屋に着く頃にはあたりも明るくなってきた。予報通り天気は良さそうで、宮之浦岳山頂まで快晴が続くことを祈った。ここから先はしばらくトイレがないのだが、淀川小屋のトイレは1つしかなく行列ができていて思わぬタイムロスとなった。

 

 淀川小屋を過ぎると傾斜が急になってきた。ここでバテるとこの先辛いので、ペースを上げずに一定に保つことを強く意識して歩いた。標高を順調に稼ぎ、木々の背丈が低くなってきた頃、「展望台」と書かれた看板と側道があった。寄り道してみると、岩の上から今まで進んできた森とこれから目指すピークを見渡すことができた。何枚か写真を撮った後、再びコースに戻った。

 

 道に湿り気や水の流れが多くなってきたと思っていると、目の前に湿原が広がった。看板を見ると花之江河だった。さっきまで森だったのにいきなり湿原が現れるなんて、今まで登ってきた山にはない不思議な感覚で面白かった。その湿原をよく見ると、ヤクシカが3匹草を食べていた。ヤクシカは想像していたよりも小さく、今まで奈良などで見てきたシカよりもかわいかった。

 

 ここからは視界を遮るような背の高い植物が少なく、解放感の溢れる道だった。足元を見ると澄み渡った沢が流れ、前を見るとこれから登るピーク、草原、どこからやってきたのか不思議に思われる巨石が見渡せた。天候も安定しており、気分は最高であった。花之江河過ぎあたりから、計画段階で懸念していたロープ場が現れてきた。だが、写真で見て想像していたよりも高さも傾斜もなく、ロープを使わなくても登れるようなものばかりであった。懸念事項が1つ消えて、正直内心ではほっとしていた。

 

 黒味岳分岐あたりで眺望がとても良かったので、居合わせた単独行の方に黒御岳をバックに写真を撮っていただいた。その後はしばらく、ピークを1つ越えると新たなピークが見えてくる、といった登りが続いた。「あれが宮之浦岳ではないか?」と話していると実は違った、といったことを23回繰り返していると疲労感が増した。巨石につける名前を考えたりしながら登りに嫌気がさし始めた頃、ようやく宮之浦岳山頂で記念撮影する人影が見えた。

 

 若干雲がかかってはいたものの、山頂からは海まで見渡せる大パノラマが広がっていた。眼下に広がる草木の緑の濃淡がとても美しい。コースタイムよりも早く歩けていたので、昼食休憩をたっぷりとることができた。早朝に受け取った登山弁当を食べたが、期待しすぎたせいだろうか、失礼ながらコンビニ弁当の方が美味しいのではないかと感じてしまった。昼食後は、岩の上に座るなどして互いに写真を撮りあった。写真部にも所属している小久保は一眼レフを持ってきていて、この山行で終始「カメラマン」と呼ばれていた。40分程山頂での時間を楽しみ、新高塚小屋へ向けて再び出発した。

 

 小屋への下りは特に難所もなく、順調に歩を進めることができた。宮之浦岳付近から、ある中高年の方々のグループとほぼ同じペースだった。そのグループも新高塚小屋泊ということを聞き、小屋に先客がいないかどうか少し不安になった。標高を下げていくと、朝に通ったような深い森の中へ再び戻ってきた。

 

 15時前に小屋に到着すると、まだ2名ほどしか到着していなかった。一安心して小屋の一角にスペースを確保して、のんびりと水汲みや夕食の準備を開始した。夕食はレトルトカレーであった。米は何度も炊いたことがあるので、もう手慣れたものだ。米を炊きながら、待ち時間にみんなでトランプをした。昨日宿で後輩に教わったゲーム(名前を何度聞いても覚えられない)が予想以上に面白く、何度やっても飽きなかった。気付くと米が炊けており、レトルトカレーを温めてチーちゃんがくれたソーセージを入れて食べた。食後には前日にスーパーで買ったラテを飲んだ。山でコーヒーを飲んでいるとき、やはり山はいいなと毎回考えている気がする。日が沈んでくると、昼間の暖かさが嘘のように冷え込んだ。ダウンを着込み、他の部員のいびき対策として耳栓をしてシュラフに入り込んだ。後から話を聞くと、小屋中でいびきの音が響いていたようだ。この部で宿泊山行に出かけるとき、耳栓を絶対に忘れてはいけない。

 

 

 

3日目 322

 

 5時になると小屋の他のグループの人達も起き出した。薄暗い中、小屋の外のテーブルで朝食の用意を始めた。メニューはパスタである。そのままの長さだとコッヘルに収まらず、半分の長さに折る必要があるのだが、パスタが飛び散って意外とうまくいかない。坂本からチャック袋を借りてその中で折ると、袋はたちまち破けた。出発前にハサミで切っておくのが正解のようだ。茹で時間は5分のものを使い、茹ですぎないように全神経を集中させた。その結果、今回はいい茹で具合に仕上がった。無事に雲取山のリベンジを果たすことができてほっとした。朝食の準備に時間がかかったこともあり、出発は予定より1時間遅くなってしまった。起床から1時間以内に出発するためには、フリーズドライなどのお湯を沸かすだけで作れるものを利用することになりそうだ。

 

 歩き出すと、目の前に昇ってくる朝日が見えた。今日も天気が良さそうで、これから見る縄文杉や白谷雲水峡への期待が高まった。縄文杉へはずっと下りで、苦労する場所はなかった。1時間半ほどで縄文杉に到着すると、周囲には誰もおらず僕たちだけで独占できた。実際に傍で見てみると、写真で見ただけでは伝わってこない迫力、存在感を感じることができた。30分ほど記念撮影などを行い、白谷雲水峡を目指して再び歩き始めた。

 

 縄文杉を越えてから、だんだんとすれ違う人の数が増えていった。人が多いとゆっくり記念撮影をすることも難しそうなので、早い時間に到着して良かったと思った。道は木道などが整備されていてとても歩きやすかった。だが、道幅が狭く人とすれ違う時には気を遣う必要があった。日帰りで縄文杉を目指す人は、ガイドをつけている人が多いようだった。多くのガイドの方に「2日間とも晴れてよかったね。」と言われ、天候に恵まれたことは相当運が良かったのだと改めて実感した。

 

 縄文杉の次の大きな見どころはウィルソン株だった。到着して株の横に荷物を降ろそうとすると、隣にいたガイドらしきおじさんが、「あの人たちは縦走ですね、縦走だと風呂に入れないから体が香ばしい香りに…」などと自分が連れている大学生らしき女性グループに話し始めた。縦走してきた人達の前で、本人に聞こえるようにそんな話をするなんて失礼極まりない。(そもそも香ばしい香りなんてしない。)あのおじさんも縦走の素晴らしさを知っているはずだし、プロが話のネタとしてあんなことを言うのか、と少し残念にも感じた。だが、話を聞いている3人が誰一人として笑っていないのを見て、少しだけ鬱憤が晴れた気がした。

 

 ガイドについての文句などを話していると、トロッコ道に出た。トロッコ道は高低差もなくこの上なく歩きやすいのだが、単調なので飽きやすいということでも有名だった。すると、合唱サークルにも属している坂本と安藤がなぜか一橋の校歌を歌い出した。合唱をやっていない限り校歌など知らないので、みんなが知ってそうな卒業ソングを歌ってくれとリクエストした。「旅立ちの日に」を歌ってくれたが、このしんみりとした曲では思ったより盛り上がらなかった。

 

 トロッコ道を抜け、楠川分れより先は登りが始まった。1日半分の疲れがたまっていることもあり、ここからの登りが想像以上に辛かった。森はだんだんと苔むしていき、「もののけ姫」の世界に近づいているようだった。僕は「もののけ姫」を観たことがなかったので、ここへ来る前に観ておくべきだったととても後悔した。

 

 太鼓岩への分岐で昼食を取った。太鼓岩へと続く道を見ると、急登が続いていた。疲れていたので一瞬迷いが生じたが、せっかくなので寄っていくことにした。太鼓岩については事前によく調べていなかったので大きな期待はしていなかったのだが、急登を登り切って岩の上に立つと驚いた。180度パノラマビューで、今までに味わったことのない解放感であった。こんなにも色々な景色で僕たちを楽しませてくれる屋久島はやはりすごい場所だと改めて感じた。

 

 太鼓岩から先は再び下りだった。苔むした岩の間を澄んだ沢が流れる、これこそまさに屋久島の森という景色が続いた。白谷雲水峡のバス停に到着すると、ちょうどタクシーの予約時間の30分ほど前であった。タクシーの運転手さんは行きと同じ方だった。宮之浦へ下る道の途中で、街全体と海が見える場所で車を止めて頂いた。春になると山桜が綺麗に咲くそうだ。車に揺られていると、疲労感と無事に全員が歩き切った安心感で眠くなってきた。

 

 15時頃、タクシーが宿に到着した。風呂に入れるのは17時からだと告げられ、少ししんどかった。やることもないので、近くのスーパーへ買い出しに出かけた。途中にあった宮之浦川にかかる橋では、左を見ると青い海、右を見ると今下りてきた山々がそびえていた。スーパーのアイス売り場で、1年生と今まで見たことのない「ジャムモナカ」というアイスを買おうという話になった。買って食べてみると、なぜか既に溶けていて、その上尋常でない甘さであり、買ったことを後悔した。夕食はネットで調べた店が満席だったので、途中で見かけたレストランに入った。1日目の店もそうだったが、屋久島のレストランの料理はとてもボリュームがある気がする。

 

 

 

4日目 323

 

 5時頃に起きて早い高速船に乗れば帰りに鹿児島に立ち寄ることもできたが、当然ながら疲れていて無理であった。高速船は10時頃出発だったので、朝はのんびりと過ごせた。宿を出て港まで歩いていると、東京に帰りたくないという気持ちが強まってきた。帰ったら春休みが終わって学校が始まり、ついに3年生になってしまう。もう少し屋久島にいて山に登り、現実逃避していたかった。

 

船の席を予約した後、乗り場にある売店でお土産を見た。安藤とシャツを買おうという話になり、僕はウィルソン株のシャツ、安藤はなぜかウミガメの柄のシャツを買った。船に乗り込み、離れていく屋久島の姿を見ながら、絶対にまたここに戻ってきたいと強く感じた。

 

 

 

総括

 

 今回の屋久島山行では、今までの経験を活かすことができたと感じている。計画段階では役割分担を行い、他のメンバーと話し合う中でプランをより良いものにすることができた。このような山行の立て方を定着させることができれば、部としての登山がより充実したものになると思う。個人的にもこの1年間、計画を立てたり先頭を歩いたりする機会が多かったこともあり、計画の立て方やパーティとしての歩き方が少しは掴めてきた気がする。反省点は、8人中3人がヘッドランプを忘れて現地で購入したことである。ヘッドランプは特に持参するように呼びかけていなかったが、山に入るときには日帰りであっても当然に持ってくるべきものである。装備の確認など、一人ひとりの安全な登山への意識はまだまだ低いと感じる。部全体で知識を共有するなど、改善のための取り組みを進めていきたい。

 

 大学生活折り返しを前にして自分の目標の一つであった屋久島に行くことができ、その山行の内容も今までの中で最高のものにすることができた。まだまだ行きたい山はたくさんあるので、今後も積極的に山に登っていきたい。

 

花之江河にてヤクシカ(3月21日8:57 撮影:内海)

宮之浦岳山頂にて(3月21日11:56)

宮之浦岳山頂より(3月21日12:20 撮影:内海)

新高塚小屋にて夕食(3月21日16:48 撮影:内海)

縄文杉(3月22日7:24 撮影:内海)

縄文杉前にて(3月22日7:28)

ウィルソン株内部より(3月22日8:59 撮影:内海)

太鼓岩より(3月22日12:43)

白谷雲水峡の森(3月22日13:52 撮影:内海)