槍ヶ岳(17/10/06-08)


 

☆天気

 

10/6 曇りのち雨

 

10/7 雨、稜線上では強風

 

10/8 晴れ

 

 

 

☆コースタイム

 

10/50日目):ホテル松本ヒルズ(前泊)

 

10/61日目):起床0400→松本駅バスターミナル0530===0705上高地バスターミナル0720---0800明神0805---0840徳沢0850---0935横尾0945---1025一ノ俣1035---1100槍沢ロッヂ1110---1135ババ平キャンプ場(泊)

 

10/72日目):起床0430→ババ平キャンプ場0655---0720大曲0720---0810天狗原分岐0810---1040殺生ヒュッテ1140---1220槍ヶ岳山荘(泊)

 

10/83日目):0300起床→0430槍ヶ岳山荘(デポ)0510---0540槍ヶ岳0610---0630槍ヶ岳山荘0650---0850ババ平キャンプ場0900---1015横尾1025---1110徳沢1120---1150明神1200---1245上高地バスターミナル

 

 

 

☆行動と感想

 

 「あの山だけは絶対に登ってから卒業したい」と、槍ヶ岳へ登ることを決意したのは、8月に北穂高岳の山頂に立ったときだった。北穂高岳登頂時は快晴で、360度の大パノラマを楽しむことができた。だが、やはりどの山にも負けない迫力と存在感を放っていたのは、鋭く尖った大キレットの先にそびえ立つ槍ヶ岳であった。あの山容が脳裏から離れず、北穂高岳から下山しながら槍ヶ岳登頂のプランを考え始めていた。

 

 夏休み中に山行を実施できれば、より多くの部員を連れていくことができた。しかし、既に9月は部の定期山行と尾瀬の個人山行でスケジュールに余裕がなかった。そこで、授業は既に始まっているが、雪が降り始める前に登れる最後のタイミングになるであろう10月上旬に行くことにした。僕はゼミ以外授業がなくいつでも夏休みの状態なので問題ないのだが、後輩には授業の自主休講を強いる形になってしまった。それにもかかわらず参加してくれた坂本と森羅にはただただ感謝である。また、もともと一緒にプランを立てていた原島が腰の不調で行けなくなってしまったのは非常に残念であった。

 

 今回のコースの選定は、槍ヶ岳の山頂に立つことを第一目標として最も易しい槍沢経由のルートとした。本当は他の山との縦走や大キレットを通過するルートを選べれば面白かったのかもしれない。しかし、残念ながら僕たちには縦走できるほどの時間的余裕と、大キレットを通過できるほどの技術力がなかった。会社から内定通知書を頂いた直後に遭難するわけにもいかないので、仕方がない。あと12年部で山登りができたら、穂高から槍ヶ岳への縦走などができただろうか?

 

 

 

10/5 0日目】

 

 鳳凰三山で妙に飛ばすパーティに入れられるなど、少し疲労がたまっていた。家を出発するときは体調がもつか若干不安だった。だが、鈍行列車で5~6時間眠るとずいぶんと元気になった。金欠が思わぬところで功を奏した。

 

 僕は17時頃に前泊のホテルに到着し、1時間ほど後に後輩2人も到着した。夕飯は、駅ビルに松本名物の山賊焼きを食べに行った。食べきれないほどのボリュームで、大盛りを注文したことを後悔した。

 

 

 

10/6 1日目】

 

 松本駅前で牛丼をかき込み、5時半発の上高地行きのバスに乗り込んだ。平日ということもあり、バスの中の乗客はまばらだった。上高地へ到着すると、天気はまだ崩れそうもなかった。天気予報では、昼頃から雨が降り出す予想となっていた。雨が降り出す前にテント場に到着できるといいね、と話しながらバス停を後にした。

 

 上高地に来るのは8月の穂高山行に引き続き今シーズン2回目だったが、何度来ても上高地は良い場所だなと思う。紅葉はまだ上高地までは降りてきていないようだった。先週の鳳凰三山の稜線上はちょうど紅葉が見頃だったので、上の方へ行けば紅葉も楽しめるはずだと期待が高まった。

 

 明神あたりで、韓国から来たというパーティに話しかけられた。英語が通じず、僕たちのパーティには韓国語がわかる者もいなかったので意思疎通がなかなかに難しかったが、どうも話を聞くと今日中に槍ヶ岳へ登頂し、その後穂高岳方面へ縦走するらしい。そこまで歩くなら、平坦なこの場所でのんびり歩いている場合ではないし、それなりに難易度の高いコースを歩こうとしていることに若干の不安を覚えた。だが、僕たちも天気が崩れる前に行動を終えたかったので、槍ヶ岳山荘は遠いということだけ伝えて(たぶん伝わっていなかったが)、そのパーティを追い越して先を急いだ。

 

 横尾を越えると、いよいよ槍沢へと続く道へ入っていった。しばらくは大した登りもなく、槍沢ロッヂが近づくにつれて少しずつ斜面が急になっていった。途中、槍見河原という場所から槍の先が少しだけ見えた。槍ヶ岳はまだまだ遠くにあるように見えた。

 

 順調に歩を進め、予定よりもずいぶん早く槍沢ロッヂに到着した。沢の向こう岸の木々は赤や黄に色づいていた。ここでテント場の受付を済ませ、20分ちょっと登るとババ平に到着した。テント場は平らで、立派なトイレと水場も完備されていた。(混むと河原に近い場所になるため、平らではないかもしれない。)今後の天候悪化に備えて、物置小屋の陰にテントを張った。設営が終了してテントの中に入って一息つくと、絶妙なタイミングで雨が降り出した。やはり早めに行動を終えて正解だったと感じた。

 

 夕飯までの時間、寒いのでシュラフにくるまってテントの中でゴロゴロしていた。しばらくすると、先ほど会った韓国人パーティが通過していった。ここまでのペースを考えると、槍ヶ岳山荘への到着は日没を過ぎることは間違いなかった。雨も強まり、気温も下がる一方なので、槍沢ロッヂへ引き返すことが賢明な判断だと思われた。何も声をかけず、後になって遭難のニュースを聞くのも気分が悪いので、後輩2人がパーティを引き止めに行ってくれた。しばらく経っても2人が戻ってこないので様子を見に行くと、2人がこちらへ引き返してきた。どうやら説得しようとしても、槍ヶ岳山荘を予約しているからといって引き返そうとしなかったようだ。僕たちにできることはやったので、これ以上仕方がなかった。

 

 夕飯は、「野菜たっぷり肉団子丼」を作った。山ごはんのレシピ集で見つけたメニューで、オクラやにんにくの芽などの野菜が摂れるのが嬉しい。(オクラ、にんにくの芽、長ネギなどの野菜は比較的日持ちがして、スティック状のためパッキングしても潰れにくいらしい。また、野菜のゆで汁で味噌汁を作ればお湯を無駄にすることもない。)これはお気に入りのメニューの1つだ。

 

 

 

10/7 2日目】

 

 今日はどちらにせよ雨の予報だったが、早朝よりも少し時間をおいた方が雨は弱くなる予報だったので、朝食後しばらく待機してから撤収して出発した。濡れたテントをザックに押し込んで雨の中歩き出すのは憂鬱だった。

 

 ここからも、ひたすら沢沿いの歩きやすい道を登っていった。悪天候の影響で視界が悪く、景色も楽しめない中歩くのは苦行だった。天狗原分岐を過ぎたあたりで、沢はなくなりひたすら斜面をジグザグに登る道となった。標高が上がるにつれて気温も下がり、雨で濡れた体が冷えた。この時期の雨を経験すると、夏山で雨にあたったくらいで文句は言えないと思った。雨風をしのげる場所で休憩したかったが、森林限界を越えておりそんな場所はない。と思っていたが、地図上の「坊主の岩小屋」という場所に、実際に人が入れる岩陰のスペースがあった。中に入ると、暖かくはないが雨はしのぐことができた。看板の説明を読むと、ここは槍ヶ岳を開山したお坊さんが何十日も籠ってお経を読んだ場所らしい。ろくな雨具もない時代にこんなことができる人がいたと思うと、この程度の雨で弱音を吐く自分が少し情けなく思えた。

 

 休憩していても体が冷える一方なので、とりあえず歩を進めて殺生ヒュッテに立ち寄ることにした。時間には余裕があったので、殺生ヒュッテで少しお茶でもしようと考えた。僕は、小屋には暖かいストーブがあり、それにあたりながらコーヒーを飲めれば幸せだなと思っていたが、なんと小屋の休憩室にはストーブがなかった。想像をはるかに上回る寒さの中での休憩となってしまったが、温かいコーヒーが身に染みるようで嬉しかった。

 

 雨が止むタイミングを待って出発したかったが、残念ながら雨は止まなかった。本当は見えるはずの槍ヶ岳は雲の中で、槍ヶ岳山荘までの距離を示すペンキ表示が唯一の目印だった。殺生ヒュッテから歩くこと40分程で、ようやく槍ヶ岳山荘に到着した。テント場の受付をしようと小屋に入ろうとしたとき、ふと槍ヶ岳の方を見ると一瞬霧が晴れて槍ヶ岳が姿を現した。周囲の登山客と共に思わず声を上げ、その姿に見とれた。今までは雲ノ平や穂高岳など遠くから見てきた槍ヶ岳も、近くで見るとまた違う迫力が感じられた。これに登ることができると思うと、期待がより一層高まった。

 

 テント場は、張数はたくさんあるがそれぞれのスペースが広くなく、4人用テントでも張る場所を探すのに少し手間取った。岩陰で風が防げそうな場所を見つけて設営を始めるが、風と雨で尋常ではない寒さだった。手がかじかみ、山の天気予報の注意事項に「凍傷」と書いてあった理由がわかった。前日の雨でテントが濡れていたので不安だったが、いざ中に入るととても暖かかった。濡れた服を脱いでありったけの防寒着を着てシュラフにくるまると、これ以上行動する気は起きなかった。

 

 結局天候が回復することはなく、槍ヶ岳へのアタックは翌日に延期とした。この日の夕飯は、待ちに待ったペミカンのキムチ鍋だった。3人分とは思えないほど大量の肉とバターを使い、家で下ごしらえしているときは見ているだけでお腹がいっぱいになるような感覚だった。だが、山の上で食べると丁度良い味付けだと感じる。自画自賛になるが、この鍋はなかなかに美味しかったと思う。夕食後は前夜と同様に3人でトランプをした。トランプ以外にやることはないし、山でやるトランプは妙に楽しい。

 

 

 

10/8 3日目】

 

 起床すると、雨は止み、昨日までテントを揺らしていた風も吹いていなかった。撤収時に空を見上げると星が見え、遠くには別の山小屋の明かりも見えた。相変わらず冷え込みは厳しかったが、山頂にアタックする上で天候上の支障はなさそうだった。早く山頂へのアタックを開始したいという気持ちに駆られて、まだ暗かったが撤収を手早く終えて槍ヶ岳山荘の前まで移動した。

 

 小屋の前から山頂方面を見ると、既に登山者のヘッドランプの明かりが見えた。僕たちは安全面を考慮してある程度周囲が明るくなってからアタックすると決めていたので、アタックザックの準備をしながら待機した。

 

 5時を過ぎたあたりで、だんだんと空が白んできた。登山者の数も増え始めたので、登山道の渋滞が起こる前に出発することにした。登り始めるとすぐに、全身を使って登るような岩場が始まった。僕が今まで登った中では一番急な岩場であると感じたので緊張したが、想像していたより高度感はなかった。所々にボルトやクサリも設置されているが、それには頼り過ぎず、基本的な3点支持を意識して登れば問題なかった。(逆に、3点支持の意味もわからないような人は来てはいけない場所である。)ただ、中途半端な軍手だと滑るので素手で登っていたが、寒くて手がかじかみそうだった。きちんとした革製のクライミンググローブがあった方がいいと思った。早めに出発したので渋滞のピークではなかったが、それでも途中で何度も待機する場面があった。これだけ人がいれば、前の人の登り方を真似して登っていけばいいので楽だが、その分落石のリスクは高いと感じた。やはりヘルメットは必須である。また、前の人が登り切っていないのにハシゴを登り始める人など、基本的な動きができていない登山者も散見された。人が多いメジャーコースということもあり、危険個所であるという意識が薄くなるのであろうか。

 

 岩場と2本のハシゴを越えると、いよいよ残るハシゴは2本となった。この2本のハシゴが一番怖いと感じた。岩場と違い、長いハシゴはどうしても高度感が出る。あまり下を見なければ問題ないのだが、つい足元を確認したときに下が見えてしまう。落ちたらまずいだろうなという考えを頭から消し、いつも通り登れば大丈夫だと自分に言い聞かせながら、11歩慎重に登っていった。

 

 心拍数が上がるのを感じながら最後のハシゴを登り切ると、そこには大勢の人がいた。山頂は思っていたよりも狭く、槍ヶ岳があんなにも尖って見えるのがうなずけた。後続の2名が無事に登り切ると、ひとまず緊張が解けた。そして、多くの人が歓声をあげながら見ている東の方角を見ると、僕たちが登頂したタイミングを待っていたかのように朝日が登り始めた。快晴の中、雲海から丸い太陽が姿を見せ、周囲の空の色が徐々に変わり始めた。実は、山頂からご来光を見るのは今回が初めてだった。ビデオを回しながら、「すごい」以外の言葉が出ず、ただただ昇る朝日に見とれていた。昨日までの悪天候と山頂直下での緊張感の反動、そして今まで部で登山をしてきて自分の中の集大成の1つとしてここに立てたと思うと、何かこみ上げてくるものがあった。

 

 山頂からは360度のパノラマビューを楽しめた。8月に登った穂高連峰も見えた。あそこから見た槍ヶ岳の姿を見てここに来ようと決意したと思うと、今反対側から同じ景色を見られることが嬉しかった。しばらく座ってのんびりしたい気分だったが、続々と登山者が増え、山頂は大混雑だった。この後も長い下山の道のりが待っているので、一通り記念撮影を終えると山頂を後にした。

 

 山頂直下の下りはコースの状況が分かっている分、上りよりも楽に感じた。上りは渋滞がひどくなっており、早めの時間に登って正解だったと感じた。小屋の前でデポした荷物をピックアップして、そこからはスピード重視でひたすら下った。坊主の岩小屋あたりまでは、振り返ると立派な槍ヶ岳の姿が見えた。前日まではガスで何も見えていなかったので、こんなにも槍ヶ岳は近くにあったのかと驚きであった。青空のもとでは紅葉がよく映え、上りでは楽しめなかった絶景を堪能できた。走るように下ったが、上高地まではなかなか距離がある。コースタイムは大幅に上回ったが、体感時間は決して短くなかった。

 

 上高地に到着して、いつも使っている上高地アルペンホテルの風呂へ向かう途中、河童橋から穂高連峰を見ると涸沢あたりが紅葉で彩られていた。夏にはない穂高連峰の表情を見て、やはりここから見る穂高は美しいと感じた。学生最後の冬山シーズン、今年度は蝶ヶ岳に挑戦する予定だ。またここから冬の穂高が見られると思うと楽しみだ。

 

 

 

【総括】

 

 まず槍ヶ岳の難易度については、槍沢ルートであればそこまでは高くないと感じた。槍ヶ岳山荘までは特に危険個所などはない。問題は山頂直下だが、一般道の岩場で3点支持の基本的な動きができるようになっていれば大丈夫だと感じた。ただ、事故のリスクが高い場所であることに違いはない。ある程度経験を積み、ヘルメットなどの装備面で不備がないように準備してから臨むべき山だ。

 

僕個人として、無雪期の山の集大成は穂高岳と考えていたが、いざ登頂するともう1つ上の山に登りたくなった。おそらく今まで僕が行ってきた登山を踏まえれば、(縦走の泊数の長さなど体力面ではなく)技術的な難易度の高さとしてはこの槍ヶ岳が集大成で丁度よいと思う。山頂アタック時には快晴となり、天も味方してくれた。申し分ない山行であった。

 

 ただ、部全体で考えれば考えるべき点もある。今年度の部としての年間計画に盛り込まれた無雪期山行は、泊数でいえば雲ノ平合宿が最長の山行だが、技術的な難易度で見るとこの槍ヶ岳を上回るものはない。つまり現状では、難易度の高い山行が部としての山行ではなく、個人山行として実施されていることになる。部の山行と個人山行の定義の違いもまだ曖昧だが、僕の感覚としては難しい山には部として取り組むという姿勢であるべきだと考えている。今後は、(あくまでも自分たちの実力の範囲内での話だが)「挑戦する」という山行は、部の年間計画に盛り込んでいく必要があると思う。このことが、部全体のレベルアップにつながるのではないか。

 

 とはいえ、この槍ヶ岳山行に後輩を連れていくことができたことは、今後の部にとって大きな糧になると思う。今回の経験を活かし、周辺山域での今後の縦走などを立てることができればいいと思う。

 

 この4年間で、北アルプス南部の山々に数多く登ってきた。その集大成として、やはり冬の槍ヶ岳をみてから卒業したいと感じた。ぜひとも、冬の蝶ヶ岳山行を成功させたい。

 

槍ヶ岳山頂よりご来光(10/8 5:45 撮影:内海)

槍ヶ岳山頂より穂高方面を望む(10/8 5:59 撮影:内海)

槍ヶ岳山頂直下、下山ルート(10/8 6:03 撮影:内海)

天狗原分岐~大曲間より、紅葉の槍沢(10/8 8:19 撮影:内海)